トイレ掃除
トイレをきれいに掃除すると金運に恵まれる。
こんな言葉を信じて、トイレ掃除を始めたのは今から10年ほど前のことだった。
たまたま読んだ本にこんなことが書いてあり、毎朝自宅でトイレの掃除を始めたのである。
「気軽に、楽しんで、続ければいいんだよ」
と同書には書いてあった。
その後、知る人ぞ知るトイレ掃除ブームが起こり、同様の書物も何点か発行された。
星野仙一、ビートたけしといった成功人が長年実践していると聞いたことも、私を後押ししたことは否めない。
それまでの私は、トイレはおろか自宅の掃除もほとんどしていなかった。
汚れに気が付いたら、たまにチョコチョコと掃除機を動かす程度の無精者だった。
思い立ったが吉日とばかり、早速トイレ専用の使い捨てのトイレクリーナーを買ってきて、その日から家の便器や床を拭くようにした。
最初のうちは「抵抗がなかった」と言えば嘘になる。
出来ることならば、あまりやりたくはなかったし、避けて通りたかった。
だが、何かが私にトイレ掃除を続けさせた。
続けていると、何時しか毎日の掃除が当然の行為と思うようになっていた。
何週間か経った頃、頭で考える前に体が勝手に動いてクリーナーを手にしていた。
以来1日も途切れることがなく掃除を続けているのは、私の秘かな誇りである。
ただ一つだけ、まだ出来ていないことがある。
それは自宅だけではなく、公共の場所でのトイレ掃除である。
「汚れに出会ったら、そこがどんな場所でも、どんなに汚れていようが、自然と体が反応して掃除を始めることが出来るようになる」
と書いてあったことは、残念ながらまだ出来ていないのだ。
何度かそういう場面に出くわしたこともあったが、体が動かなかったというか、決心がつかなかった。
そういったことが自然に出来るようになれば、人間として一皮むけるともあった。
以前、名古屋の回春エステに行った時、見事なまでにきれいなトイレに出会ったことがあった。
思わずスタッフの人にその訳を聞いたところ、毎日従業員が全員素手で掃除しているということだった。
それもトップからの強制ではなく、全員の総意で。
なるほど、この店が愛知県下の各種エステ店の中でも、圧倒的に流行っている理由がよくわかった。私もつまらないプライドは捨てようと決心した。